合同会社自照社

コラム：この道をゆけば ── 相愛大学准教授　赤井智顕

西の彼方に

　阿弥陀仏のお浄土は、西の方角にあると仏典に説かれています。先人方は太陽の沈みゆく西の方角に、やがて生まれ往く「いのちの世界」を想いながら、西という方角を大切にされてきました。
　しかしなぜ、方角を限定することのできない真実そのものの世界であるお浄土が、西にあると説かれているのでしょうか。それは太陽が静かに沈みゆく西の方角に、私の命の終わりを重ねて見つめていくとき、この命が終わった後に生まれ往く世界を想うには、西という方角が最も適しているからだと、先人は教えてくれています。つねに心は散り乱れ、いのちの進むべき方向の定まらない者にとっては、方角を示してくださらなければお浄土を想うことも、心を向けることも不可能なことだからです。
　以前、勤めている大学の講義で、お浄土が西の方角に説かれている理由を説明した時のことです。講義後に学生から届けられた所感用紙に、印象深い言葉が書き込まれていました。

　「亡くなった私の祖母は、夕方になると西の方角を拝みながら、よくお念仏を称えていました。小さかった私は、あの時の祖母の姿の意味を理解することができませんでしたが、今日の話を聞いてようやく分かりました。祖母は夕日の沈みゆく西の彼方のお浄土に、先立っていった懐かしい方々を想いながら、大切な時間を過ごしていたのですね。私も西の彼方に、大好きだった祖母のことを想いたいと思います。」

　今年もお彼岸の時節を迎えます。夕日の沈みゆく西の彼方に想いを馳せながら、先立って往かれた大切な方々を偲びたいと思います。

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