合同会社自照社

コラム:自然（じねん）の声に聞く── 龍谷大学名誉教授大田利生

寒さに耐えて

　桜だよりが聞かれる日もそう遠くはないようです。ふと、開花宣言はどのようにして出されるのだろう、そんなことを思っているうち、桜の花が咲くメカニズムが気になり、直接、京都府立植物園に尋ねてみました。ソメイヨシノは開花し落花すると、しばらくして花芽ができるそうです。それが、眠った状態のままで秋まで過ごし、次の年の一月、二月の寒さで目が覚めるのだということを聞くことができました。眠る、目が覚めるというその表現に限りなく親近感を覚えることでした。
　最近では、地球温暖化によって開花も早くなったということを聞きますが、私達はつい、暖かくなるから咲くものだと思い込み、そこに寒さを考えることはいたしません。しかし、目が覚めるところを開花のスタートと考えますと、美しく咲いた花には、寒さと暖かさの両方が必要だと言えましょう。そして、厳しい寒さに耐えてきて今の美しさがあるのだと思うと、桜の見方も少し変わってくるのかもしれません。何事においても成就するということは、その過程を大切に思わなければならないということでしょうか。
　私達は、結果だけを見て、感嘆の声をあげたり称讃の声を出すことがほとんどではないかと思われることです。とにかく、早く結果を知りたい、楽をして良い状態に身を置きたいという風潮が現代の特徴と言えましょう。また、見えるところだけを見て、見えない部分は見ようとしない。桜の木でいえば、その根の部分は見えないけれど、確かにあるのです。見えないから、ないということは言えません。むしろ根の部分が大事です。美しく咲かせるための力になっている部分に眼を向けるべきでしょう。桜の花が語りかけてくるものを聞いてみたいと思うことです。（了）
（大田利生先生のコラムご執筆は、ひとまず本配信にて最終回となります〔4月末まで掲載〕。5月からは赤井智顕さんの新連載となります。こちらもご期待ください。）

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